日本の食品市場を中心に食品や食品関連技術を専門としたアドバイザリーコンサルタント 久保村 喜代子

 
クボムラーナ

Kubomura Food Advisory Consultants Japan Food Innovation 久保村食文化研究所

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食文化と食品添加物考

第六回 「アルギン酸とその塩類」

業界へ戻ってから、暫くお世話になった食品会社を辞めようと決心した。ちょうど夏の商戦、その食品会社での景品が、大きなラッコの縫いぐるみであった。可愛い物万歳!とかく、食品会社の景品は、私のようなファンができるような物でなければ、売れない。某社、お菓子のキャラクターから製品が売れたという事もあって、マーケティング会社のお手本のようになってしまった。

その当時、なんとしても欲しくてしょうがなかった。しかし、「会社関係者はご遠慮下さい。」が基本で悲しい。辞めるのだから、手に入れたいのに欲求不満にしないでいただきたい!……今?欲しかったラッコ、この原稿をタイプ打つ傍ら、男の子か女の子か分からないけど立っている。

何で、こんなに好きかと言うと、たった一度テレビでラッコの生態を見てからだった。妙に透き通った綺麗な濃いブルーの海で、自由自在に泳いでいる姿、そして、潜っては大好きな貝を採ってきて、お腹の上で石と一緒に割って食べる可愛らしさが気に入った。いつでも好きな時にお腹一杯食べられる。なんと素晴らしい事だろう。昨日、新聞記事を読んで驚いた。水族館で人気のラッコ、楽をしてこのユーモラスな貝割りをしなくなって、水族館の水槽の壁でやろうとするので困るという話であった。

このラッコ、寝る時など、なんと大きな海藻にくるまって休む。海の中で海藻と共に暮らす。波と共に、海藻も揺れて、漂って、どれだけ心地良い事だろう!それにしてもこの海藻、ほんの少し、いや、日本の昆布よりどれ位大きいのだろうか?テレビの解説を思い出す。この岩礁や岩の多いジャイアンドケルプの海の森は、紛れもないラッコの住み家であった。

 

 

当時、ちょうど私は、アルギン酸とその塩類の勉強をしている頃だった。これがジャイアントケルプか!北米、南米、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドの海岸沿いに多く見られるアルギンの供給の源であった。この連載を引き受けする時、一番先にこのケルプを思い出した。何故なら、食品添加物は、食べられるのだから当然、日常の食べ物から生まれるのが自然の道だと思ったからである。人間は過ちを繰り返しながら歴史を重ねてきた。日本、いや世界中、食品添加物の歴史を巡っていったら、決して繰り返してはいけない経験をたくさんしてきた。

業界へ戻った頃、私も食品添加物に対しては、嫌悪感を抱いていた一人であった。当然、レシピー開発にも利用したくない。特に、勉強不足の時の暁には、化け学のような名前のものには致命傷であった。一般消費者が嫌がるのも無理はないし、賛同していた。しかし、製品開発には使用しなければならないし、正しく覚えたかった。そんな時、皆、食品添加物には長い物語があるのを自然に悟ったし、ケルプもその一つであった。

これは、昆布と同じ仲間に違いない。テレビで見ていて、咄嗟に感じた。世界中、海があるのだから、同じように、海藻が生えるのが当たり前だ。一昨年、シングルモルトウィのスキーの魅力にとりつかれてスコットランドを旅した。北の海の海岸へこのケルプが流れついていた。やっぱり、子供の頃から知った日本の昆布に実によく似ていて驚いた。面白い!

当たり前かしら?そう言えば、関西、特に大阪へ仕事で出張すると、昆布の加工品をよく買って帰る。どちらかと言うと、北の海のこの昆布が何故商品開発されて沢山あるのだろうか?不思議に、食べ物の事になったら、絶対に尽きる事がないのである。

藻類は、日本人の食生活に極めて深い関係がある。この点については、世界的に見ても類がない程、食文化として受け継がれているようである。諸外国の中にも、藻類を食用としている例もあるが日常的には稀である。しかし、これらを食品工業に利用する事については、海外の方が断然優れているようである。カラギーナンも良い例である。同じ海藻から抽出されたアルギン酸塩類は、何故、広く知られていないのだろうか?消費者のイメージの悪い食品添加物として使用されているからであろうか?事実、アルギン酸工業は、食品工業を始め、多くの工業に対する重要な原料供給産業に成長しているのである。

藻類(Algae)という名称は、十八世紀の中頃、スウェーデンの植物科学者Carl von Linneにより、二十世紀入ってから、現在広く用いられる緑藻、褐藻、紅藻、藍藻等の藻体の色調によって分類が行われている。緑藻、藍藻類は、海のサラダとして、調理の主材料になる事はあまりなく、もっぱら付け合わせ、風味つけなど主材料の引き立て役に用いられている事が多いし、生鮮食品以外に、塩蔵品又は、乾燥品にして加工して食されている。更に、この中で、一部、真水に成育するクロレラは、たん白質源として栽培されていて、興味ある。

これに対して、褐藻、紅藻類は、ほとんどが海水、海の中での植物であり、藻類の栄養特性は、約85%の水分以外は、糖質、たん白質および無機質で、この他ビタミン、脂質がある。しかしながら、この藻類の乾燥物には、40~60%の多糖類が含まれており、この多量の含有量から、ある程度の大きさの工業を支えるのに十分な量を、確保できる為に商業的に発達したのである。

藻類の多糖類において、緑藻ではグルコースを主体とし、褐藻類では、ウロン酸から構成されるアルギン酸とフコースを主体とするフコイデインであり、紅藻類ではガラクトースを主体とするガラクタンであるというように、構成成分が異なるだけで無く、それぞれ複雑な構造を持っている。この藻類の多糖類は、人間の消化管では消化されにくいと言われているが、昨今注目されている食物繊維として脚光を浴びつつある。
食用の藻類は、長い歴史の中でそれぞれの特色が生かされて、加工法、貯蔵法が完成されてきた。特に、このケルプと同じ、褐藻類の昆布は、どれだけ日本人の食生活に浸透しているのだろうか?

いくつになってもスタミナ切れのしない若さを保っていたい。出来たら不老不死の薬も欲しい。現実、そんな物があるはずがない。二千年前、中国の奏の始皇帝は、東方の海上に不老不死の仙人が住む「鳳来山」があると信じ、これを求めて、徐福という使者を日本に遣わした。結局、この人は霊薬には巡り会えずに、客死してしまった。これが実は昆布であったという説がある。確かに縄文時代から日本列島は世界一と言えるほど昆布の産地であった。この昆布は、海の長寿薬であるかもしれない。

日本は世界一の長寿民族であるが、若しかしたらこの長効果は高い昆布を食べているからかもしれない。現に沖縄の食文化の中で、この昆布の消費量が日本一でもあり、平均寿命が一番高いのは沖縄県である。昆布の成分は、成人病予防には、殊の他効果が見られるようである。

 

 

昆布の旨味と調理も正に、日本の食文化!出汁を取る時の昆布(グルタミン酸の旨味)、そして昆布の佃煮と数知れずあるが、一つの摩訶不思議?煮物にする場合には、水の量の1~2割の酢を用いると、水だけの時より、実に柔らかく煮えるのが経験的に知られた。これは、昆布のアルギン酸が酸より、膨潤や部分的溶解起こしやすいためである。酢昆布、とろろ昆布など加工品も酢への浸漬により、柔らかくする。

このアルギン酸とその塩類は、どのような経緯から利用されるようになったのだろうか?不思議な事に、多くの工業は、海藻の取れる所ら始まった。このKelpという言葉、欧州では海藻を焼いた灰と言う意味である位である。特に、スペイン、フランス、英国の海岸で発展した。英国のハイランド地方の貧しい人々は、これらの海藻を集め、焼いて灰にして、収入を得て、生計を立てていた。厳しい気候の中を生きていくのは大変であったのだ。

欧州では、産業革命の頃、原料物資への関心の高まりと共に、海藻も化学物質の原料として開発されたのである。十七世紀には、焼成海藻に含有されているソーダ灰は、陶器の艶掛けや、石鹸の製造用に有用である事が発見されている。

褐藻類から抽出されるアルギン酸塩類は、英国の化学者ECC Stanfordによって、海藻から分離され命名され、この方法は、今日の商業的アルギン酸塩抽出の基礎となっている。アルギン酸塩類と、その基本の酸であるアルギン酸は、ウロン酸の重合体の多糖類で、褐藻類の主な成分であるが、紅藻類の類似した多糖類の様々な物質の構造と性状は、全く異なる。

アルギン酸塩は、剛性と柔軟な性質の両方を兼ね備えており、これは海藻が海の中で絶え間ない動きに耐えられるからと言われている。このアルギン酸塩はイオン交換機能を持っているが、海藻は、海の海水の中から栄養素を吸収することが可能である。大体、この褐藻そのものは、世界中驚くべき数であるが、この工業用のアルギン酸塩を抽出するものは、入手可能な量や、入手方法が容易な事、現地の集荷能力、輸送の題、含有量を考慮に入れて原料を選択している。

アルギン酸塩を抽出するジャイアントケルプは、通常根に似た付着根で岩に引っ付いていて、深いところに成育する物は、約60メートルにも達する。茎から葉がリボン状に成育して、通常気泡を持っていて、成長すると、百に余る茎が付着根より出来て、成熟したら、約1メートルから2メートルの直径になると言われており、日本の昆布とは異なる。

海藻の中では、アルギン酸塩分子は、ウロン酸ユニットが、1,4グルコシド結合で結合した長鎖として存在し、構造研究によって共重合体である事が分かっている。この共重合体を構成するウロン酸には、LとD型があり、これら2つの構成する重合体の配列が定まっておらず、この配列は、海藻の酒類、部位、アルギン酸塩を採取した成長時期によっても異なり、様々な研究開発が行われている。

そして、この2つの糖のユニットは、分子内で同じ糖単位としたブロックで存在しており、3つの型が在り、マニュロン酸ブロックとグルロン酸ブロックのランダムブロックとなる。これらは、分子構造が似通っており、マニュロン酸とグルロン酸は、カルボキシル基の位置によって区別され、このブロックの立体構造が全く異なり、ゲル化する時の特性に影響する。

このアルギン酸塩類は、水に溶けて、注いだ時、つながって流動するロングブロー性を持つ口当たりの良い溶液を形成する。柔らかく煮えた昆布の煮物を食べた時のあの触感をイメージして欲しい?

これらをレシピー開発に利用しようとする場合、この流動特性は様々な物理的、化学的要因に影響されるのである。このような場合、スペシャリストに教授いて頂いた方が、早く学ぶべし、使用可能になる。物理的には、濃度、剪断速度、分子の大きさ、重合度、温度、混合可能な溶媒、化学的要因にはpH,金属イオン封鎖剤、一価の塩、多価の陽イオンと特に、カルシウムがある。
最後に体験談を!

多くの増粘安定剤の溶液調整をする場合、知らないが故に恥をかいた。親水性に決まっている。アルギン酸塩類は親水コロイド、これらに水を入れたら、速やかに濡れて、急速に溶解してしまう。お蔭でママコだらけ、気が付かなかった。何故だか判断が付かなかった。ママコの魂の表面だけ溶けて、層を形成して、その層が魂の内部の湿潤化を妨害してしまった。この溶解時間は、アルギン酸塩の溶解速度より、むしろ魂の外部に形成される層の溶解速度の方が重要であった。レシピー開発、製造ラインにのせるには、これらの性質を理解して、調理機械のより進んだ食品工業の機械を上手に使い熟す事だ。昆布を溶ける位まで煮るのは、大変なのに、これなら、トロトロの世界から簡単にゲルができる。食文化と科学の進歩が、食品添加物を発展させるのだ。

 

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