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第十二回「米澱粉」
はじめに
何処へ行っても今年は不景気だ。売り上げが伸びない。どうしようもない。これからどう変化するか分からない。
……などなど同じ言葉を耳にするが、皆さんどう思われますか?
そんな中、確実に食品業界は大きな流れが起きている。昨年の米国IFT・欧州FIEの展示会の中で、注目すべきはSavory Flavourが主流であることと、そして欧米人の目標のDiet問題で脂肪代謝の澱粉が、あいも変わらず目を引いたことがある。
この間、仕事で総務庁の食品の基準・認証制度の見直し規制緩和リストに目を通した。なにせ、レシピ―開発するのには、様々な勉強をしなければならない。
インターネットを接続と大見得切ってはみたが、忍び寄る年齢には勝てず難易したものの、お見事開通できた。長年やっている事が更に便利に、合理的に、ずっと情報入手が可能。
なにしろ食品関連は、沢山の経験と情報が必要なのである。
-懐かしい原稿をImprove …製品開発担当者には今の時代に、食品添加物としてか?それとも食品として米澱粉を利用するの???
タピオカパールの話
昨年のタピオカパールを利用したSweets ?
製品開発は、アイデアの突出からフードサイエンス。。そしてマーケット戦略の勝負による事を納得のようである。
昼御飯に美味しい物を沢山食べて、夜は水以外は何も摂らない。これを実行すると、手取り早く、中年肥りの進行だけは止められる。ストレスに勝つには、体を動かす事と、お酒と美味しい食事が全て。
食べ物で何が一番かと言うと、米穀商に生まれたのだから、お米バンザイと甘い物だ。うら若き乙女の頃は、それこそ甘い物だけで昼食は終わった。ケーキは何個でもOKだった。まるで昨今のケーキ大食い選手権の特集番組ではないが、凄かった。これでは、本当のケーキの味と甘さを味わっているのだろうか…などと思いつつも、今日のお昼は、中華料理のコースである。ご馳走をいただくのだから、全部食べてしまえと頑張った次第。「うぬ?、デザートは、タピオカ入り甘いココナッツミルク」
いやぁー、職業病!途端に規制緩和リストの食品添加物の使用規制、澱粉及びタピオカパール(タピオカ澱粉加工用)に使用される二硫化硫黄の使用基準の禁止を思い出した。
皆さん、タピオカパールをご存じだろうか?
このタピオカパール、だいぶ前から、日本に入っていたが、あまり注目を浴びていなかった。それが、エスニックブームのタイ料理の流行で、一躍有名になった。甘いココナッツミルクに入っている、あの丸い透明な粒である。口に入れると、粒をほんの少し感じ、直ぐに溶けてしまう。主に東南アジアや南米などで栽培されるキャッサバの根茎を水洗の後に、火力乾燥で製造されるタピオカ澱粉から作られる。
この澱粉は、非常に糊化しやすく、その際に大量の水を吸収する性質がある。普通の澱粉は糊化には一定の条件が必要であるのとは異なり、ユニークである為、このような食品タピオカパールが考えられた。
元来タピオカ澱粉は、良質の物と良質でない物と様々ある。それらの違いは、明らかに製造が家内工業の製品か、近代的大工場において火力乾燥で作られた高級品があることかの違いである。当然の結果として思い起こされるのは、澱粉とは、まっ白だという既成概念だ。お蔭で品質価値の第一ポイントは、白さだ。マーケティングの立場で考えたら、真っ先に外観との教え通りだ。
タピオカ澱粉製造に、何故、二硫化硫黄を使用するのだろうか?答えは簡単である。白くする為だ。単なる廉価が高級品に化けることが可能。しかし、無期限には使用不可であって、使用基準が設けられている。
商品開発の過程では、タピオカパールは、真珠の名の如く、白さが決め手である。消費者の心理を考える。より白い方が選択されるのは当然に決まっている。しかし、大量に製造されるタピオカ澱粉と通称タピオカパールは違う。
パールは加工食品、使用基準の禁止ということは、どれだけ使用してもよいということか?いや、タピオカパールは、タピオカ澱粉からどうやって加工されるのだろうか?考えてみて欲しい……。
その綺麗さと白さで思い出される米澱粉の話をしたい。
米澱粉
米澱粉とは書いたものの、その存在をレシピー開発に応用された経験者は少ないのではないだろうか。現在商品化されて、たくさんの需要があるのも事実だ。
米というと、一昨年の米騒動を思い出すが、今年の日本海側は、豪雪と聞く。今年も豊作を祈るばかりである。あの折、炊飯改良材としての米澱粉の効果をお伝えできなかったのは、残念だった。
澱粉業界というと、世界には有名な巨大企業が存在している。工業用澱粉のジャンルなど一般消費者には、思いもよらぬ供給量である。その中で食品用澱粉のジャンルも確たる位置をレシピー開発の中で占めている。この供給量の食品用か、工業用かのジャンル分けは、実に複雑怪奇とも言われている。まだまだ日本では、生澱粉は輸入不許可であることも一因に違いないが…。
これらの問題には、食品添加物が「必要」と言われている姿とも、関係しているかもしれない。
とにかく、興味のある食品、食品原材料、それも食品添加物である米澱粉を取り上げてみよう。私たちの祖先が造り上げてきた長い食文化の中からは、常に食品添加物が生まれてきているようだが、米澱粉の出発点も同じように思えてならない。
何年か前までは、世界に何社かの米澱粉製造会社が存在していた。それが今、数える程しかない。しかし、これらは確たる需要の下に生産を続けている。日本でも一社だけであるが、それもしかるべき需要の下に製造販売を続けているそうな。
レシピー開発の世界では、この有名なフランス料理のスープのトロミは、米からである。欧州に米なんか?と思う方には不思議かもしれない。イタリアのリゾットも米が材料だ。
もう一つ立派な例をご紹介したい。
日本の菓子業界で、ポピュラーな団子や、求肥の製造に利用される白玉粉を思い出して欲しい。家庭でも子供の頃、夏の暑い日に、三時のおやつに冷えた白玉団子を甘い蜜で食べた。最近働く主婦は、既存のおやつを子供に与えてしまう。しかし、白玉団子のあの滑らかなテクスチャーはいくつになっても舌、口の中の感触、頭の中、全てで記憶している。冷えたデザート「プルルン」とカラギーナンデザートとは、完璧に異なるテクスチャーの出所は、米澱粉の存在だ。気温が上がっても溶けないカナギーナンは、便利な増粘安定剤である。
この米澱粉、欧米ではベビー用食品の食品添加物としても使用されている。他の澱粉と比較すると、粒子の大きさは、凡そ5.5ミクロン前後である。馬鈴薯澱粉40ミクロン、甘薯澱粉30ミクロン、小麦澱粉21ミクロン、とうもろこし澱粉14ミクロン、と遥かに小粒だ。さらに形状も他の澱粉の球形、楕円形、卵形、多角形と比較して、角張った多角形をしている。
これらの性質や、粒径や、形状から塩基性の色素をよく吸着する事等から、紙や人間の皮膚に付着して、平滑面を変える効果があるといわれている。特に、写真用の印刷紙などに利用され、更にコピー用感光紙、カラー印刷など特殊用紙のサイジング、コーティング用の用途して使用されている。食品のみならず、食品添加物としてまた、更に薬品への幅広いジャンルで応用されている。
米からの澱粉製造は、どのようになっているのだろうか?
一般的に澱粉の製造法には、二つの方法がある。ひとつには、馬鈴薯や甘薯のように、磨砕と水洗によって、澱粉を分離する方法である。もう一つの方法は、コーンスターチの澱粉の製造において行われる亜硫酸、アルカリなどによって、浸漬処理の後に、磨砕、水洗によって澱粉を得る。これら二つの製造法は、物理的、化学的処理をどのように考慮するかどうかということである。食品添加物としてか、食品原材料そのものか?ということであるが…。
こと米澱粉の製造に関しては、この二つの方法が利用されているのも事実。何故だろうか?
米は、これらの澱粉と異なり、芋類ではない。米は、米飯の美味しさの鍵の一つともなっている蛋白質の含量が高い。さらに、細胞壁はもちろん、澱粉粒が表面を覆っている。これらの理由で、二つの方法による製造では、製品の蛋白質含量が異なり、それぞれ異なった名称で呼ばれている。
即ち、広く知られたご存じの白玉粉と純米澱粉である。特に白玉粉は、主として、物理的処理で行われており、一般的な芋類同様の製造方式に準じて製造される。主として、モチ米を原料として、これを精米し、水浸漬、磨砕により製造する。この純米澱粉は、白玉粉はとは明らかに、蛋白質含量が少ないのが特徴である。
白玉粉は、粘度は米澱粉とは類似であり、一部粗粒を含むが、ほとんどが米の澱粉の単粒、複粒からなっている。しかし、純米澱粉より蛋白含量は、確かに高い。その意味で、業界では白玉粉は穀物粉として取り扱われているが、製造工程から判断すると、粗澱粉とでもいうべきものである。
食品添加物業界で一般的に呼ばれているコメ澱粉とは、蛋白質含量も低く、粒径も揃った純米澱粉である。ではこのコメ澱粉は、レシピー開発の後、加工食品に表示される際には、食品添加物か、それとも食品なのだろうか?
食品産業の歴史からかいま見ると、白玉粉の製造は、古く徳川時代初期から行われている。しかし、これに対して、コメ澱粉の製造は比較的新しい。
戦後、写真用印画用など様々な用途が開発された。
これらの用途は、皆蛋白質が少ないことが必須条件であった。その為、白玉粉は、粒径では合格だったが、蛋白含量では不合格であった。
当時は、戦後の食糧不足の時代である。東南アジアで植民地を抱えるところや、その他の特典からオランダやベルギーなどの米澱粉の製造を実施していた会社から輸入されていた。昭和27年頃から、外貨流出を防ぐために国産に踏み切った。主食たる米をさらにこうした加工工程をとり、製造する。要は日本国内での米問題にも波及してくる、他用途利用米の存在である。
最後に、米澱粉の用途を説明しておきたい。
白玉粉は、家庭でおやつを作るために消費されたり、汁粉、ぎゅうひ、大福餅等菓子原料として利用される。また、近年では白玉粉を水で捏ねる手間を省いた魚肉ソーセージ型の即席白玉粉もある。
求肥は、和風菓子の製造にとっては、餅と共に欠かせないものである。白玉粉を水捏ねして、蒸し上げてから、これを白玉粉の二倍量の砂糖と練り上げたもので、物性の変化が非常に少ない。一か月以上も可食性を持ち、様々に利用されている。糊料としては、花火、タバコ、ケチャップなどにも利用されている。
比較して純米澱粉は、微小粒の天然有機物であることを利用する用途が多い。前途の印画用紙や、化粧用としても多く利用されている。紙と同じく、皮膚の凹凸によく固着する為に化粧崩れがしない。食品や、ゴム工業用などの手粉、打ち粉、振り掛け粉など滑剤としての用途もある。
食品工業においての昨今のコメ粉(化工された)の用途は、そのテクスチャーの源を再現するかの如く、フラワーペーストなど幅広く利用されている。アルファー化されたコメ澱粉は、ご飯、米菓、大福などのテクスチャー改良剤として働きが注目されている。また、アルファー化されたモチコメ澱粉は、餃子の皮のソフト化や、歩留まりなど、やはりテクスチャー改良剤として、つまりが修飾されたモディファイトスターチとしての特徴が、加工食品のレシピー開発に沢山利用されている。