日本の食品市場を中心に食品や食品関連技術を専門としたアドバイザリーコンサルタント 久保村 喜代子

 
クボムラーナ

Kubomura Food Advisory Consultants Japan Food Innovation 久保村食文化研究所

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論文・出版物

高齢者用食品開発を考える

動物性食品は適度に

ある日突然老人性痴呆症の症候を現すようになった父と正面から対峙して自宅看護、病院、特別養護老人ホームと一〇年余り、父を通して高齢者問題の現実を体験。現在も高齢の母、義父母を通して「高齢者の最大の楽しみは食欲。人生最後に訪れる黄昏(たそがれ)を悔いなくするためにも高齢者用食品の開発が重要」という久保村氏に体験と食品の専門知識を通して得た高齢者用食品の必要性、あるべき姿を連載、ともに考えていきたい。

わが国の長寿はなぜだろう。長寿の規定要因の中では、食生活と栄養が最も重要である。戦後の高度成長期を中心に食生活や栄養摂取状態は大きく変わり、それに伴って急激に平均寿命は伸び、疫病構造も大きく変化した。

昨今は、日本の寿命の伸長と関連させて、「日本食が良い」とするコンセプトがよりポピュラーになりつつある。今日、世界一の長寿をもたらしたわが国の食事は、適度な欧米化と日本の伝統を受け継ぐ食形態を合致したものである。

その特徴は「菜食中心の粗食が長寿をもたらす」という誤ったことわざを完全に払拭するものである。まず、日本人のエネルギー摂取量は、ほぼ一〇〇年間一定水準で推移している。根本的に低栄養であり、戦後米類が減少して、動物性食品と油脂類が増加した。各食品群からのエネルギー摂取率が大きく変化し、栄養の質が改善した。

例をあげると、タンパク質と脂肪の動物性と植物性の摂取比が、ほぼ一対一になっている。世界的にみてもこのような国は極めて少ない。欧米では動物性が六〇%、日本以外のアジア諸国は、四〇%以下。日本と同じような比率を示すのは地中海沿岸の国々ギリシャ、スペイン、イタリアなどがあるが、彼らは食べ過ぎによる総エネルギ‐摂取量がかなり多い。

動物性タンパク質食品の魚介類と、肉類の摂取量がほぼ同じなのも、他国との大きな違い。日本についで魚介類摂取量が多いノルウェーでさえ、わが国の半分である。このほか野菜類や、特に根菜類、海草、茸類を常食としているのも特徴である。動物実験で、動物性と植物性の摂取の比率が一対一が理想的、と確かめられたことはない。しかし、世界的に分析されたデータから、動物性食品を適度に摂取することが長寿をもたらすと認められている。しかし、日本人のカルシウム不足や食塩過剰は見逃すわけにはいかない。

 

“利益追求”があふれる市場

老人性痴呆症の父が暮らしている病院から、急を知らせる連絡が入った。駆けつけると、何処へ旅立とうとする安らかな父がいた。父の四六歳の時の娘であり、確かに「目に入れても痛く無い」と言うその言葉通り溺愛されて今日の私がいる。

キャリアウーマンを自認している自分を顧みたくなる衝動にかられる瞬間が、週に一度の見舞いの日に訪れた。家族の皆が父を病院へ送りたくなかった。自宅で介護したい。しかし、歳を重ねて、糖尿病、膀胱癌、高血圧の後、脳梗塞を数度起こした母には父の面倒を見ることは不可能。

もう少しわれわれ子供が歳をとってからこのような事態に遭遇していたら対応も変わっていただろうにと兄とふたりで愚痴をこぼしあったこともある。

私は食品の新製品開発を生きがいに頑張っている。義理の姉は三人の子供を育てることが生きがい。誰が父の面倒を見る義務があるのか家族騒動は数知れず、いい年をした兄と妹は、ぶち合いの喧嘩を甥の前でした。

老人性痴呆症の父は、巷にあふれ出版されている本の内容と同じく、有名な問題行動のほとんどをとった。

何故にその行動をとるのか、適切な介護の元に落ち着いてきた父を見て理解するようになった。八方手を尽くして入れた高級特別養護老人ホームだったが、この頃の私たち家族はどれだけ良心の呵責に囚われたことか。

食欲の後に人間である私たちは自然な排泄を催す。不思議と父は、ヨレヨレ、トボトボと歩いて、顔を洗う洗面所でおしっこをする。どうやら、至極当然と思っているらしい。文句を言ったらけげんな顔をしている。

父に悪いことをしたおぼえなど微塵すらない。さも当然の行為のようだ。お酒を飲んで完全な酩酊状態で帰宅、母を困らせているその当時のような気持ちは無いようだ。

ある日のこと、見舞いに行くと父が私を呼んでいる。「喜代子、早く、早く」。見れば、洋式便器に手を突っ込んでいる。「美味しそうな大福だ。この味、試したら。仕事の足しになると思うんだ。お食べよ」。晴天の霹靂とはこのことだった。汚物は父にとって、大好物に見えたにちがいない。腰が抜けそうになったが必死で堪えた。

それだけ、さまざまな問題行動を経験した。それもなぜか、全部食べ物に関してであった。たぶん私の仕事で風味作りが一番難しいことを気にしていてくれたのだろう。

そんな折り、赤い鳥居の絵が洗面所に張られた。ここは神聖な場所。不思議と父は、そこで催さなくなった。今度は、病室の隅にあるごみ箱を目掛けて、発車オーライ。介護の難しさの一端をかいま見た。

このような高齢者用食品の開発は誰が担うのだろう。ちまたに溢れている新製品は、皆食品会社の利益追求が究極のテ‐マである。

健常人にはどう見ても複雑怪奇でいまだ知り得ることのできない高齢者用食品の開発をどうとらえて良いものだろうか?

ここは一番、患者の食事を知り尽くした給食会社の出番なのだろう。

 

老人病院の食事は外観が第一

義理の両親は子供たちに世話になりたくないと、高額の有料老人ホ‐ムを購入した。なかなかハイカラな人生観である。ライフスタイルは健康志向そのもので、テレビを見れば何が体に効くからと言って健康食品に余念がない。実の両親とは差異が目立つ。

しかし、高齢になり思考力が劣りはじめるとテレビをそのまま信じるから困る。塩が駄目と言われれば「摂取したくない」が基本となってしまう。否定的なニュアンスだけが心に残ってしまう。

薄味も大切なことだが、ナトリウムも栄養素のひとつ。最近の研究では、骨ミネラルであり、ナトリウムが不足すると、骨吸収が起こることが明らかになった。そのおりの摂取量は、食塩相当量だと六g程度である。

同様にミネラルの過剰摂取も問題である。リン、カルシウムや鉄の摂取過剰もそう。こうしたミネラルや微量元素の問題は、過剰と欠乏の両面から考えなければならない。昨今の栄養サプリメントも同様。特に、高齢者向けの食品開発は、栄養学的課題が大きい。極めて個別的な嗜好への対応が求められており、乳児食、幼児食などとは異なっている。若い頃と異なった嗜好であり、体の生理的機能のレベルもさまざま。そのうえ、いわゆる持病の病態を持つ。

父の老人病院で悟った。一番始めに食事の外観が大事。高齢の喫食者がどこまで味覚を判断できているかは分からない。しかし、綺麗な食べ物は誰もが好む。新製品開発でいつも海外との比較をしているが、外観は万国最大の配慮を行う。かの国では、私たち日本人には嫌われるあの毒々しい、ケバケバしい色沢が好まれる。

老人病院でのひがな一日は恐ろしく長い。誰もが隣人を気にしているのに気付く。一緒のテーブルの他の人の食事ぶりにも目が行く。食欲が麻痺している患者は食欲のない人の分まで食べたい衝動に駆られている。食欲のない人には、いつも同じ食器ではいくら中身を変えても同じように見えるに違いない。

一汁三菜に因んだかは知らないが、老人病院での食事は品数が多い。しかし、悲しいことに食べ方の順番を忘れてしまっている。御飯だけ、そして汁物、おかず、デザートを最初に食べる人もいる。食欲があるのか、味を感じているのか……見当がつかない。

見舞いに訪れると、食事献立表がカラフルに色付けされて壁に貼ってある。もしかしたら、患者は楽しみにしているかも……。これだけさまざまな食事は家庭の介護では不可能だ。どれだけのカロリー、栄養素を吸収しているかなど、高齢者となっては誰が知る。

委託の給食会社の奮戦ぶりも見当がついた。公的な費用でまかなうためにどうしているのだろうか。

病院給食は院外給食など抱える課題は大きい。この制限の中では、必然的に良い原材料を使用できるのだろうか。それにしても一食を食べるのに時間がかかる。手が不自由なせいだろうか。それとも食べたくないからか。老人には、さまざまな症状がある。

新製品開発のニーズを掴む中で、一番難儀な高齢者用。元気ハツラツな人でさえ、嗜好は気難しくなっている。

 

増える味覚障害、年齢だけが理由ではない

高齢者の味覚については、昨今の研究では、訂正されつつある。ほんの少し前までは、ほとんどすべての感覚は、高齢になると衰えると言われていた。味蕾の数は、古い研究では、加齢とともに減少するとされていたが、それほど変わらないと言われている。また今までの味を感じることさえ、アカデミックな世界では新しくなってきている。

それなのに何故、高齢者に味覚障害が多いのだろうか。それも年々増加していると聞く。やはり生理的味覚障害が増加しているのだろうか。専門家の指摘によると、年齢だけが理由の味覚障害は実に少ないという。明らかな理由は、内科的な病気とその治療のために服用している薬剤の副作用によるもの、さらに唾液の減少による口腔内の病気による変化と言われている。

一般消費者の味覚の科学的検証は一部の食品関連の人々の間では十分行われている。しかし、それが高齢者用の食品開発をより困難にさせている側面もある。

義父が心臓病の治療を受けている。その治療の際、調剤からの注意書きが「この薬を使用している患者は、納豆、ホウレン草などビタミンKを吸収阻害になるので、摂取を控えて下さい」とある。この二つは義父の好物だ。その上、代表的な高齢者向けのメニューに体によい食品の代表として頻繁に利用されている。

高根の花と呼ばれる程の有料老人ホームで、何が一番安いかというと食事代である。義父の住むホームの食事はなかなか工夫されている。しかし、何千万円も払って入居したはずなのに食費は一日三食で二〇〇〇円。私は子供の頃の給食の形式的なあの味と姿を思い出す。

住む所は再新鋭の設備で、体のことを考えたエクササイズシステムも揃っている。よくメディアにも紹介される施設だ。義父の最初の入居理由は終身介護の条件が気にいったことらしい。悲しいことに義母はさまざまな理由もあり、一切の家事から解放されることを選択した。

毎週有料老人ホームに委託されている給食会社からメニュー表が届く。朝、昼、晩と二通りずつ示されている。表示の数字はエネルギー、タンパク質、塩分を記載。義父は、丹念に一日の塩分量を計算して枠外にマークしている。

食堂のスタッフは給食受託会社からの出向。どこかのレストランへ行ったような錯覚にとらわれる。たまに訪ねてここで食事をともにする。職業柄、三食二〇〇〇円の食費で給食会社の利益を出すには、到底原材料の価格やでき栄えも察しがつく。大量仕入れのため、目の前の海では新鮮な魚がとれるのにここでは冷凍、解凍調理された魚が使用される。

義父は有料ホームに入居する前グルメを気取っていた。「喜代子さん、ここではカロリー計算もしてくれる。病院のような食事内容だけど、何も考えなくても良いから楽ちん。栄養面は満足だし信じている。粗食にも入居当初と比べたら慣れたよ。食堂へ行けば他の入居者に会えるしね」とにっこり!

「昨今、食堂へ来る人が減ったんだ。皆が揃ってまずいと言いはじめた。そりゃーしょうがないと思うんだよ。入居して時が経ったら飽きてくるんだから……。食費を高くしたら良くなるものかねぇー。給食会社だって、こんな田舎にスタッフを送り込んで、この数と値段では商売になるはずがないに決まっている。何か良い解決策はないものだろうか」

 

遅れる特定保健用食品

老人性痴呆症の父のお陰で、食品の開発を改めて体験させられた。老人病院での経験を一生忘れることはない。入院させて翌年のこと、父が子供のようにぐずった。あれだけあった食欲がない。はてまた恒例の便秘だろうか。動きが鈍って便通を催さないようだった。

口の中の入れ歯を出したり入れたりしている。病室の床に落としても、拾ってそのまま口に入れている。不潔行為だ。本人は汚いなどと自覚していない。早速入れ歯を取り上げた。怒っっているが、いたしかたない。歯茎が腫れているではないか。早速看護婦さんに報告。

老化により、入れ歯の調子が悪くなったようだ。歯茎が減ってきているのがこの目で確かめられた。なんとかこの入れ歯を使用するために、入れ歯と歯茎の間に詰め物をした。どうも調整が付かない。

とうとう入れ歯を取らざるを得なかった。この日から、父は固い物が食べられなくなってしまった。柔らかい物ばかりでは、脳に刺激が伝わらないではないか。本人が痴呆症になっては入れ歯調整不能。なんとかテクスチャーを感じさせてやりたかった。これだけ飽食なのに、この目的にそった食べ物は何もない。

婦長に相談した。婦長の後ろの棚は、父と一緒の老人たちの入れ歯がずらっと並んでいた。このときの入れ歯は父が亡くなり、病院から連れ帰る時、父の大事な宝物として預かり物と一緒に戻ってきた。

老人病院へ入居させざるをえなかった時、大事な三種の神器は補聴器と老眼鏡と入れ歯だった。痴呆患者の調整は今の科学では不可能なものばかりだ。

わが国では、本格的な高齢化社会の到来を踏まえて、厚生省が高齢者用食品を栄養改善法に基づく特別用途食品の一部として位置付けている。しかし、病者用の食品、妊産婦・授乳婦用粉乳と、乳児用調整粉乳、高齢者用食品の咀しゃく困難者用食品・咀しゃくえん下困難者用食品、昨今注目の特定保健用食品の中で、高齢者用食品は最も開発が遅々として進まず遅れている分野だ。

咀しゃく・えん下が困難になった高齢者は、適正な栄養素の摂取の維持が不可能になり、低栄養状態に陥るリスクが飛躍的に増大する。現に実例で学んだ。徐々に老いて行く父は食べ物が喉を通りにくくなった。水も駄目、蒸せて大変なことになる。気管に詰まって大騒ぎだ。死んでしまうかと思った。

症状を熟知している看護婦さんや介護の人々は、父が水を欲した時、必ず可溶性澱粉を入れて、粘性を持たせてえん下を促進していたのだった。そう言えば、食事の内容も変化してきた。流動性が高くなった。食べやすく、飲み込みやすくがモットー、その上栄養も摂取しなければなけない。

見舞いに訪れる時、母も兄も決まって、たくさんの父の好物を持参して食べさせた。二人は、老人病院へ送ってしまった良心の呵責を頻繁に見舞いに訪れることと、食べさせることで癒していたに違いない。その後、摂取と排泄のコントロールで介護する人々の苦労を察することもなく。

当然、この私はといったら、たった一個のジャンボプリンぐらいだ。美味しそうに父が食べている。喉の通りも良好、でもお腹いっぱいにはならないから、父はもっともっとと欲しがる。もっと食べさせてやりたいが心を鬼にして父の食欲をはぐらかす努力をした。

 

新製品はなぜ少ない

厚生省が発表した高齢者用の食品の適用範囲と、許可基準がある。医学・栄養学的見地から見て、高齢者が摂取するのに適した食品であること、高齢者用の食品としてその表示は相応しい物であること、使用方法が簡便であること、高齢者用食品に対して、栄養素を強化する場合には、その食品一食分に含まれる栄養素量は一日の所要量の五〇%を超えないこととある。

これだけ一般食品の新製品は沢山出回っているのに高齢者用食品の新製品は少ないのだろうか。食品メーカーの気持ちも察することができる。儲からないし、アピールしない物は開発したってはじまらない。利益も取れないという。

昨年の米国での学会で一番に取り沙汰されたのは、シルバー用食品だった。世界中の健康志向の中、ダイエットや、制がんと予防医学が注目されている。しかし、本当に必要なのは人生最後の楽しみ「食欲」を満たすことに違いない。

ほんの少し毒性があっても良い。誰もが好む甘さを味わせてあげたい。テクスチャーの科学を理解して、おいしい組織と歯触り、口当たりを感じさせてやりたい。匂いも香水を連想するような芳香を!

先ほども有名な澱粉会社の新しい澱粉をチェックした。この商品は父の経験から有効な気がする。溶解の温度帯が比較的広い。さっと溶ける。喉の通過に良いに違いない。えん下困難者用にうってつけ。今現在、病院で流通しているこの種の用途の澱粉より高性能。商品開発に利用したい。

担当者曰く「すでに流通しているし、輸入すると価格がアップする。当然競争力の無い物は、製品開発で日の目を見るはずがない」。

残念でしようがない。確かに致し方無いのも事実である。高齢者用食品開発の夢は、実現するまで希望を捨てたくない。テレビも、グルメ気取りと若い世代のための料理だけではなく、高齢者用のメニューも取り上げて欲しい。誰が一番、テレビを見ているか知っているはずだから。

高齢者の老化防止、ぼけ防止、機能回復訓練の一環に、食事を作ることも必要。料理は身の回りのことを自分でできるようになるための大きな一歩でもある。

二一世紀に訪れる日本の人口三分の一の高齢者用食事を一体誰が用意する?

 

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