日本の食品市場を中心に食品や食品関連技術を専門としたアドバイザリーコンサルタント 久保村 喜代子

 
クボムラーナ

Kubomura Food Advisory Consultants Japan Food Innovation 久保村食文化研究所

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惣菜・給食特集:究極の加工食品開発・米軍国防戦闘給食プログラム

食を国防と捉えるアメリカでは「米軍・国防戦闘給食プログラム」が二〇二〇年までの長期計画で動き始めている。ナノテクノロジー、パルステクノロジー、高圧、放射線照射など二一世紀の加工食品の粋が結集されている一方で、日本の技術も数多く取り入れられている。このほど「二一世紀の食品開発と食品科学の啓蒙活動」を目的にIFT(本部:USシカゴ、食品科学技術者学会)本部国際理事・久保村喜代子氏がボストン郊外のアメリカ軍研究所「ナティックラボ」を訪ねた。

二〇〇一年9月11日、ニューヨークがテロによる攻撃を受け世界を震撼させた。翌月の10月7日、米軍軍隊はタリバン政府に対して難攻不落の要塞を爆撃開始。空爆はアフガニスタン全住民に通知するチラシを投下してテロ撲滅に注力した。

同時に、米軍はおおよそ三万七〇〇〇個もの個別に包装された食品“Humanitarina Dialy Rations”(通称HDR=人道・博愛主義・日刊配給食)を爆撃の中を逃避している避難民に食物を供給して手助けするために投下した。わが国では、なじみの浅い言葉Rations(レイション=救援物資)は海外ではポピュラーな用語だ。

この軍隊と人道博愛主義のパッケージ(レイション)に含まれる一つの謎を解くために、私は軍の食品を研究している通称Natick(ナティク)研究所として知られているアメリカ軍研究所を訪問する機会を得た。

ペンタゴン経由の米軍施設立入りは日本人の食品科学技術者では初めてで、驚愕の経験となった。アメリカ国防省管轄コンバットプログラム局長のジェラルド・ダッシュ氏は友好的に、そして親切に、最新の、いや世界一といわれる米軍の食品加工開発の最先端を見せてくれた。

国防戦闘給食プログラム。それはアメリカ軍の長い経験と蓄積による究極の食品開発にほかならない。海に囲まれたわが国は、戦争と食物の大事な関係を軽んじているのではないだろうか。おいしい、まずいのレベルではない。第二次世界大戦下の日本の「欲しがりません、勝つまでは」に顕著に現れているような、空腹を我慢して精神の強さで戦う姿勢とは対極の「例え非常事態の戦闘下でも、お腹一杯にして体力と気力を充実させてから戦う!」という根本的なコンセプトの差異に愕然とした。

アメリカ軍は、二一世紀に向けて軍隊と人道博愛主義による戦時下供給食(救援物資)を二〇二〇年までの長期計画として開発に勤しんでいる。究極の加工保存食品をどのように開発したらよいか。それは、加工食品だけでなく、科学技術と食品との融合そのものである。

まずはおいしく食べる術を絶えず追い求めている姿に感動した。たかが加工食品、されど食べ物。長く蓄積された経験から開発された軍事食は、開発コンセプトから製品開発に至るまで一貫したポリシーがある。単に、非常時に食べる炊き出しやご飯を思い出してはいけない。日本でも関西大地震後の炊き出しはとてもおいしかったそうだ。しかし、敵が攻めてきたら、飯ごうでご飯を炊いてはいられない。

もともとシリアルを主食にできる国民であるが、副食に応用している一つがフリーズドライ技術である。水もしくはお湯でアッという間に“スペシャル・デリ”が仕上がる。しかもお湯は数年前日本で日本酒の熱燗「かんばん娘」などでヒットした石灰に水を加えて加熱するという日本の技術が採用されている。ポーションはフリーズドライ食品も加熱剤も個食から数人前の多量まで対応している。

食糧危機という言葉をよく耳にするが、わが国は食糧、特にこうした非常時の加工食品の開発を注視していないような気がする。中国の栗の皮を剥いて充填して殺菌、手抜き料理でキャリアウーマンを応援、というような目先だけのヒットを追いかけて、食糧=国防という“種の保存”をかけた「国家レベルの食品開発」の考え方は無しに等しい。

さまざまな科学技術が戦争と関連して進歩し、人々の生活を向上させてきた。最近の形状記憶ワイシャツはパラシュート布の開発の産物だそうだ。食品衛生でいつも話題のHACCPは、宇宙飛行の時、地上の雑菌類などを運ばないようにするために開発された手法。クリーンな環境で、新鮮で菌数の少ない原料を使用しての物作り。軍隊用配給食は酷烈で厳しい気候条件や規格に適合しなければならない。賞味期限は長く、耐久性ありとさまざまな条件が要求される。

単なる食品の開発だけではない。軍隊用配給食は、すぐ食べられる自給式給食が基本だ。兵士のリュックサックや野戦服のポケットに容易に収めることが可能な目方の軽いもの、融通の利くミールバッグの中に最大限の食餌をパック包装するなどからロジスティクスまでさまざまな状況を想定してデザインされている。

アフガニスタンというと、欧州では有名なドライフルーツの生産地として知られている。西アジアの内陸国で国土の七五%が高山・高原という地形は温度差が激しく乾燥性の気候で果実を自然に乾燥させ、人々はおいしいテクスチャーと風味を残す術を持っていた。その昔はのどかな田園だったと聞いている。現在はどのような惨状なのだろうか。早い復興を心から望んでいる。

さて、アフガニスタンに投下されたレイションの黄色のパッケージは三壁エアーデリバリーシステムと呼ばれる手法で、特別丈夫なボール紙コンテナ(三角形)を飛行機から投下した。各々のコンテナには、四七〇~四九〇個ものレイションが積載されており、飛行機は投下ゾーンに近くなると機内を減圧してカーゴのドアを開ける。パイロットは、飛行機の機首をおよそ七度上げる。その理由はコンテナがエアクラフトから自然に転がり出る角度だから。このコンテナは、空電の電線やパラシュートの背負い紐で縛って固定され、エアクラフトの中で明らかに一回転させて、このレイションを“浮き送り投下”する。この際、カラのボール紙コンテナも一緒に投下される。ハーネスと呼ばれるパラシュート用の紐は巧みに縮む。この方法によりレイションの広域配布が可能になった。

レイションの重さは三八オンス。日光などで明るく目立つ。そして害虫から食品を守るために黄色に設計されている。このパウチは、二重のプラスチック構造で極悪の環境下、超高度からの落下にもよく耐えるに十分な強さを保持する。その表示を読むと、“これはアメリカ合衆国の人々からの食品贈り物です”と英語、フランス語、スペイン語で記載。描かれている絵は“これは食べ物です”といわんばかりに男性のシルエットでスプーンが口元に示されている。

極めて優れた戦時下配給食のノウハウを一般民も利用できるようにするため一九九三年、アメリカ国防省では防衛戦闘給食システムを開発した。レイションの個人用は節度ある平均的な人の一日の栄養物摂取の必要量を補給できるように二二〇〇キロカロリーで、通常の軍隊用配給食はその運動量による栄養消耗から四四〇〇キロカロリーと目的・用途別に栄養設計されている。

世界中の多種多様な宗教とその食事療法は喫食者の最も広義な容認を必要とする。従って、レイションは動物性や動物性副産物など最小限の乳製品を除いて含んでいない。ノンアルコールおよびアルコールベースの原材料も当然含まれていない。

今回のアフガニスタンに投下したレイションは、多量のレンズ豆やコメを基本とした二つのベジタリアン料理を主として補足的な食品アイテム、例えばパン、フルーツバー、栄養強化されたビスケット、ピーナツバター、スパイス類などが含まれていた。スプーンに加えてノンアルコールベースの濡れナプキンは、ミールバッグでも特異な内容物だ。すべてのミールはすぐに食べられる。直火加熱、ポケットの中で温める、アントレパックを湯煎、冷たいままでも食べられる。まさに食品およびその関連技術の結晶だ。

パッケージ内の食品をこの程度の製品開発かと見くびるなかれ、そのパッケージの食品の詰め方一つにも長年のノウハウの蓄積で緻密な計算があり、おそらく真似ができないだろう。レイションは、華氏八〇度で一八ヵ月の賞味期限がある。

通常の軍事配給食は、“見事な実のある、価値ある挑戦”として絶えず改良が続けられている。レトルトパウチはポピュラーであるが、日本の技術を最高水準としてわが国の著名なカレーブランドパウチが存在する。アメリカでは、当初すでにコールドチェーンが発達して、レトルトパウチ技術は製品としてあまり流行しなかった。しかし、現在は包材を四層(ポリプロピレン、アルミニュームホイル、ナイロン、ポリエステル)にして、日本の技術を凌いでいる。特にナイロンの追加は、戦場でのパフォーマンスの可能性を増やし、コスト低減、重量の軽量化を実現、特に寒冷環境下で手触りが粗い取扱いに耐えるためのより丈夫な包装となっている。

レイションの開発は多種さまざま。絶えず改善、改良が継続中。湾岸戦争など戦闘を通して兵士たちの希望を取り入れてきたそうだ。改良プログラムで哲学的精神を基準におき、幾多の兵士にインタビューを実施。製品開発者たちは、雨、霙、雪、ぬかるみなど過酷なまでの現実的な状況下で、兵士たちと共に膨大な時間を費やし、足しげく現場(戦地)に行っている。こうした偉大なマーチャンダイジングの結果、新しいメニュー開発、試作品が生まれる。それは食品メーカーが一般消費者にアンケートやインタビュー、試食テストをするのと同じ「顧客満足」のコンセプトで貫かれている。

これら完璧なメニュー開発プログラムに従って、ナティック研究所は特定の意味を持つ食品を開発している。湾岸戦争でハーシーフーズ社は、ナティック加熱安定チョコレートバーを開発した。伝統的なハーシーバーは、砂漠シールド(包囲)作戦の間、高温でも安定性のあるチョコレートを供給するため処方を改良して兵士が好むチョコレートバーを提供した。しかし、戦時下供給食をデリバリーする際の温度差があまりに広範囲にわたり、チョコレートが粉ふき状態になって中止。その後の開発の課題となった。

ナティック研究所は、産学がそれぞれ二〇~三〇企業・大学の共同で常に新しい食品を開発している。参加企業は公募である。そして研究所はブランドを持ち、表示やコマーシャルセールスのために、米国で一つの会社としてライセンスされ、商標登録されている。Ergoと呼ばれるエナジーリッチ、グルコース活用ドリンクは突撃隊の厳しい環境下でテストされたのはつとに有名。“ハーシーバー(Hooah Bar)”は“国で最高の食品科学と技術の心”と語られている。

軍の食品研究所が製品開発を実行してその製品がコマーシャルセールスの道を辿っている。二一世紀の食品開発の技術は、この軍事配給食・救援物資開発から生まれている。近々その実態を発表したい。

レイション。実は日本にも第二次世界大戦後の昭和21年12月にララ物資としてアメリカから学校給食用物資が贈呈されており、戦争で途絶えていた学校給食が再開されたという経緯がある。同時にほかにも物資が送られてきた。それは生きた動物まであったという。ベビーブームの後に生まれた私も、小学校の時にまずいスキムミルクを教師のいぬ間にじょうずに床の穴から流し捨てた記憶がある。明治・大正生まれの両親の食育による結果、豆乳ばかり飲んでいた私には動物性乳飲料は口にしたことがなく、拒絶反応を示してしまった。

世界に体に良いとその名を轟かせている日本食。しかし、戦後間もない頃の日本人は栄養失調そのものだった。アメリカ軍の恩恵によるスキムミルクは、今なら流行の骨粗しょう症予防に効き目があるといえるのだが、当時は栄養補給に家畜用飼料代替物かと嘯く風評も流れたようだ。

戦後、米軍の救援物資でわが国の学校給食はパンとスキムミルクで再開、全国に普及した。そして選択給食、カフェテリアなどなど豊かに発展して今日の世界に誇る学校給食の姿となっている。一方で、ウガッタ見方をすれば、アメリカの余剰小麦でのコッペパンから、食パンの西欧風食生活への移行が短期間でスムーズに進んだ。しかも、学校給食の変化は家庭の食卓も変えた。コメが主食の純日本風食生活がパンが主食に現れたことにより副菜も変化してバター、マーガリンに代表される動物性油脂の摂取が増加した。

こうした食生活は成人病患者を増大してライフスタイルの見直しを余儀なくされているのは周知の通りである。主食が変わるということは五〇年、一〇〇年の長期で見れば国の存亡に関わる問題に発展しかねないという教訓が残った。

わが国メディアの報道が、レイションや軍隊用配給食の風味の評価だけだったのは少々寂しい。いや残念だ。

 

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