日本の食品市場を中心に食品や食品関連技術を専門としたアドバイザリーコンサルタント 久保村 喜代子

 
クボムラーナ

Kubomura Food Advisory Consultants Japan Food Innovation 久保村食文化研究所

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論文・出版物

世界の香料産業とそのトレンド

1. はじめに

 

さまざまなデーターソースから推測すると世界の香料産業の市場規模は年間およそ2兆円弱であり,近年は毎年約2%の伸びを見せている。香料の世界市場の約80%は,北アメリカ,ヨーロッパ,アジアパシフィックで占めると言われている。香料の市場動向を知ることにより製品開発の鍵を握ることが可能となる。現在,香料会社で最大規模を誇るのはジボタン社である。同社の進展理由は,加工食品の開発が飛躍的に進んでいる国々,例えば新興国,ブラジル,ロシア,インド,中国,メキシコ,インドネシア,南アフリカ,トルコなどに対して徹底した地理的市場開発を実施してきたことによる。現在の香料業界では,各国,さらに民族,地方ごとの嗜好差異による,複雑な風味やテクスチャーに合致する製品開発が必要なのである。香料の技術開発による製造技術の高度化はまさに革新的である。しかしその一方で,香料原材料ソースの寡占化問題,加工食品の健康志向など,食品香料には技術で解決できない課題も多く残されている。

 

 

2. 世界の香料市場と2012年予測

 

消費者の心理や行動は香料市場に大きく影響する。感覚知覚の科学の革新により,風味の機器分析データと官能評価データにさらに食品の購買時や飲食時の心理や行動といった要素をあわせた消費者分析を行うことがひとつのトレンドなってきている。消費者分析を行う際には,旅行や移動・移民問題,高齢者の増加,健康志向,ノスタルジアやスローフード志向,炭素問題の倫理的価値観,外食志向,シンプルな食生活(簡素化)そして多種多様な感覚知覚変化など,多様な要素が大きく影響してくる。ここ100年で見ると,香料需要は加工食品が発達してきた歴史と連動してきた。食品香料の需要の半分以上はアルコール飲料とソフトドリンクである。以後,乳製品・乾燥製品,煙草,製菓,パン製品,口腔製品,アイスクリーム,ホットドリンクの順となる(図1)。

 

IT革命が進むと共に,保守的な食品産業においても世界のトレンド情報がスピーディに伝わるようになった。フレーバーの中で最も伸びているのは飲料用のフルーツ系香料である。世界中のフルーツの風味のジュースをどこの国でも作ることが可能な時代である。また,インドのラッシー,フィンランドやロシアのケフィア,ギリシャスタイルのヨーグルトなど乳製品も世界中でさまざまな国や地方で作られてきた製品がグローバルなレベルでポピュラーになりつつある。

 

近年の消費者志向として,ナチュラルプロダクトが大きな比重を占めるようになってきた。これに伴い加工食品の製品開発における潮流はナチュラルフレーバーに移りつつある。食品香料の市場のうち約半分が合成系の香料であるとされているが,ナチュラルフレーバーの需要が急増しており,香料業界においても合成から天然への流れを留めることはできない。

 

昨年末に英国レザーヘッドフードリサーチ社が発表した2012年食品と飲料のトレンドを以下に紹介する。

 

*健康とウェルネス(健康であること)
ヒトの健康を維持するために何らかの貢献をする製品が求められる。例えば従来の加工食品を「減塩」,「減糖」するこために役立つ素材などである

 

*Sustainability
持続可能性は欧米社会全体の大きな流れである。食品企業は,現在の食糧供給問題を考慮し,道徳的な面を含めたサスティナビリティを打ち出していかなければならない。またサスティナビリティを打ち出せるか否かで,サプライチェーンへ向けての印象が大きく異なってくる

 

*簡便性
多忙な日常を送る現代人の食事スタイルに対応して,栄養摂取とともに新しいプレミアムな要求事を適えたReady to meal やMeal kitが代行

 

*Flavour Solution
砂糖や塩の摂取を減らす目的に沿った減塩・減糖レシピ開発のために,風味インパクトのあるスパイスやハーブ類の利用,レモングラス・生姜・海藻などのよりエキゾチックな風味づけ,例えばダークチョコレートにラベンダーフレーバーリングといったプレミアムなトーンが用いられる

 

*Free from“Food”
消費者にとって明らかに食べ物であるにもかかわらず不作為に問題となるもの,例えばアレルギー症状などの原因を突き止め,その加工食品から完全にそれをフリーにしたもの。ニッチ市場に向けて「大丈夫であるという安心感を与える」ことになる製品

*ナチュラル
欧米の現在の製品開発で最も大きな課題とテーマになっている言葉,香料・添加物にとっては重要な意味を持つ

 

*予算を意識してお手頃感のある贅沢ができる食品
値頃感は現在の消費者の大きな要求事項である。家族と共に食する団らんを盛り上げる要素としてのメリットを強調できる製品

 

*品質由来は,その産地から
原材料の産地・起源を明確にすることで,製品品質に明瞭感が付与される。例えば,「マダマスカル島からのバニラ豆」といった表現は風味アップと品質の良さを連想できる

 

*高齢者用の製品開発
*より柔軟な分かりやすい食品表示
等であり香料トレンドが大きくその影響と位置づけとなっている

 

3. 世界の香料市場

 

料業界の中でも特異な存在である。現在の世界の香料市場は,ジボタン(スイス),フィルメニッヒ(スイス),IFF(米国)の3社が,市場全体5割弱を占める(表1)。

3社以外の香料会社は,トレンドを捉え好機的ビジネススタイルの製品開発で積極的に新製品を発表している。概して大手香料会社は多民族出身者により構成されておりグローバル市場において優位性があるが,その反面利益率やマージンの低迷化も顕著である。一方で中小規模の香料会社は,その国や地方ならではの特性を打ち出したナチュラルフレーバーの開発により製品の差別化を図っている。香料産業の特記すべき役割として,加工食品に新たな価値を与えるアイデア提案やさまざまな発明がある。今後は拡大する加工食品市場に備えたより廉価な製品開発をすることになるであろう。

 

わが国の香料メーカーは,高砂香料,長谷川香料などの大手を含め200社程と推測される。年間国内生産量8万t弱,市場規模は2,000億円程度と言われており,日本の加工食品業界で新しい風味創造を続けている。

 

4. 世界の食品香料のトレンド

 

4. 1 消費者嗜好
現代の消費者は,“Natural“という言葉とその魅力的であろう意味に捕らわれ,購買意欲を抱く。ナチュラルフレーバーの市場規模は現在約3兆円,最近5年は年率9%の伸びを見せており,2015年には4兆円規模の市場となるであろうと言われている。消費者の嗜好は,が重なり製品開発にはその基本的には「伝統から冒険へ」,「ローカルからエスニック」,「健康から快楽へ」といった方向性で変化している。一方で先進国の高齢化問題も消費者嗜好に影響を与えている。これらの事柄を総合的に考慮し,消費者嗜好を正しく理解し,今後の嗜好変化を予測した上で,香料の製品開発,レシピ開発,フレーバーアプリケーションを行っていくことが必要となっている。

 

4. 2 食品香料のトレンド
食品香料の対象となる産業界リーダー,一般消費者,小売業者,食品製造業者,これらの人々がセイボリーフレーバー(おいしさの本髄)に求めるのは,高品質,ナチュラル,本物の風味,健康機能といったことである。

 

a) Savoury Flavours
セイボリーフレーバーの最大の用途は,“Ready to meal”,“Ready to drink”と称する製品である。香料はSweet とSavoury Flavourに大別される。特にセイボリーは塩からい風味に合致する全ての原材料に関連する風味であり,おいしさの探究と風味付けを決定付ける。そのため香料のトレンドに大きなインパクトを与えている。特にスナック類,スープ,ソース類の風味において,グローバルな新しい流れの製品開発を支えている。近年のトレンドは,エスニックなスパイシー風味のチリ,生姜,ペッパー類である。また,フルーツのフレーバーとセーボリーのコンビフレーバーも注目されている。昨今では,イチゴに丁子のフレーバーを組み合わせるなど香料の新しい風味のトーンが提案されてきた。その昔,日本からの醤油がWhole Purpose Seasoningと呼ばれ,ソフトクリームにトッピングされていたのが思い出される。また畜肉系の風味嗜好のセイボリーフレーバーも堅調である。西欧社会がローストミートフレーバーが好まれるのに対し,中国等ではボイルド系が好まれ伸びているようである。セイボリーフレーバーは,畜肉類だけでなく水産系食品へも幅を広げている。また水産加工副産物を利用した製品開発がなされるようになってきており,これに伴いフレーバー需要も拡大してきた。
ただし発展途上国においては,香料の価格が大きなデメリットになっている。消費者の嗜好とともに,地域の経済や技術の状況に合わせた新たなアプリケーション開発が必需である。例えば,国内で「惣菜」と呼ばれるものは日本独自のものであり,香料の使用方法も日本独自にアプリケーションを開発されなければならない。

 

b)高品質
消費者の自宅でのエンターテインメントにひと役を担う高品質な加工食品が欧米社会で増加している。わが国でもプレミアムスタイルの調味料が主婦の中で人気を博している。こうした消費者の心を射止める風味こそがセイボリーフレーバーの本筋あり,大きな流れである。求められるのは短時間で簡便に本物感を演出し郷愁を呼び起こさせる風味。これらは「セレクト」や「グルメ」といった言葉に代表され,酢,ドレッシング,ワイン(特別な発酵工程を用いたものなど)などに特別な表示として称されている。

 

c)本物ナチュラル志向
香料製品も,「ナチュラル」,「本物」の志向によりマッチしたものに移行しており,こうした商品中心に食品や飲料への需要が高まっている。ナチュラル志向は世界中で急速に世界中で進行しており,新製品開発のテー
マとしては,「安全性」,「持続可能性」,「健康に良いこと」,「高品質」,「本物であること」が必須である。欧米社会の茶飲料のフレーバーとして,緑茶,紅茶,ルイボス茶に加え,ジャスミン,菊などの新しいフレーバーも浸透しつつある。保守的だったソフトドリンク業界へも新しいアイデアが取り入れられるようになってきた。エナジードリンクの新製品にはセイボリーフレーバーが導入されている。

 

d)健康志向
健康志向は食品産業の永遠のテーマであるが,健康に寄与する原材料の味を調えたりマスキングしたりする香料利用がトレンド。

 

e)エスニックフレーバートレンド
エスニックフレーバーは,その国や地方にとっては伝統的なものであるが,他国にとっては新しいフレーバーの提案である。こうした製品が正しいR&Dのバックグラウンドで製品化されるようになってきた。昨今欧米では,カルダモン,スウィートポテト,マンゴー,ハイビスカス,クプアス,ローズウォーター,燻しの強いベーコンフレーバーなどが少しずつ製品化が進んできている。

 

f)海外香料会社の今後の製品開発を示唆する新しいフレーバー
*Sweet Flavour
塩キャラメル,ストロベリー ジャスミン,ユーカリ,スゥイ―トポテト,ローストココナツ,メキシコ コーヒー Café de olla ,ルクマ(南米の果物),さまざまな産地からのバニラフレーバー(マダガスカル・メキシコ・インドネシア・インド・タヒチ)
*Savory Flavour
白トリュフ,キムチ,アブサン(リキュール),フィリピン カラマンシー,ローズ水,熟成カイエンヌペッパー,味醂,ロメスコソース(カタルーニャナッツトマトソース),AjiAmarillo (スペインチリ),黒ニンニク,コリアンダー,ピンクペッパーコーン,プラム。
一昔前の香料提案は地中海ダイエットからの提案が多かったが,現在では世界中のあらゆるところからのローカルエスニックフレーバーが世界のトレンドを形成するようになった。

 

4. 3 主な食品香料とバイオテクノロジー

 

ポピュラーな香気の食品香料用物質は,バイオテクノロジー(主に発酵技術)により廉価に製造できるようになってきた。酵母による発酵はパン製造に長年利用されてきた技術であるが,コントロールされた環境による酵母発酵は,香料原料物質の製造においても昨今注目を集めている(表2参照)。

自然界から工業製品にする際にはさまざまな難題が発生するが,これらの発酵による香気成分の分子構造はナチュラルな製品と同様であり,「Nature indentical flavors」 としてナチュラル表示が容認される。そのため抽出による成分を代替することが可能となる。例えばテルペン類であれば表2に記載された以外のさまざまなアプリケーションにも使用することができ,食品香料だけでなく,ナチュラルタイプの防虫剤,市街地の農薬や殺生物剤,バイオ燃料,食品素材,ニュートラシューティカルズや香粧品用ケミカルとしても利用できるであろう。新規製品(Novel products )への風味付けにおいても原材料のトレーサビリティがしやすい。製造量設定がフレキシビリティにできるため,持続可能性を証明するカーボンフットプリント(CO2排出量)の計算も容易である。

 

香料製造におけるバイオテクノロジー利用事例を以下に記す。
*化合物の還化を触媒する酵素遺伝子クローニングと発現
*テルペン酵素の特異性や活性を改善するプロテインエンジニアリング
*テルペンを製造するためのイースト代謝エンジニアリング
*セキステルペンプロダクトを製造するための発酵技術開発および回復プロセス(特定生物・組織のライブラリーから遺伝子物質を組み合わせる技術:化学合成や単独培養では得ることができない商業上価値ある新しいセキステルペン類の製造を可能とする)。

 

分子レベルまで掘り下げて新しいバイオテクノロジーによる製造技術を確立した香料物質はコスト削減,精製度向上といったメリットにより,多彩な用途での利用が期待されるようになる。ひいてはこれらの製品の拡大は食品香料の市場拡大,加工食品の伸長につながっていくことになるであろう。

 

4. 4 香料業界とSensory Evaluation

 

香気分析で検出されたデータがそのまま処方で使用できるかは正直疑問である。

 

香気分析や感覚機器分析の進歩は,香料会社のリサーチ力の進歩に確実に貢献している。また,機器分析の進歩は新しい化合物の発見にもつながる。しかし,それはあくまでも原材料の香り成分である化学物質がどれだけ含まれているかを判断することであり,新しい成分であるなら将来利用するための規格規制の作成の基礎データとなる。

 

大手香料会社のR&D戦略と販売促進の鍵となるのがSensory Evaluation である。これは技術的な面も含め大きなアピールができる。国際社会の最新のメディア情報によれば,加工食品の判断は,大きくFlavour/Apperance/ Texutureの3つのコンセプトに分けることができる。この3つのコンセプトに基づいて,香料会社は消費者をターゲットに商品開発へ向けた試作を進める。

 

近年の最大の課題は,カロリー低減食品である。カロリー低減食品のMouthfeel,風味,香りにおいて,全脂肪含有製品と同様のクリーム感,リッチ感などのインパクトを与えるために複雑な処方が必要となる。この原材料の一部に香料サポートによるSensoryEvaluation技術を用い新しいMouthfeellanguageを開発している。

 

風味評価は成分分析や機器分析のみならず,心理学等他分野の知見を取り入れた統計学の学問である。しかしながら食品開発の現場にとっては,開発効率を速めるなどの確実な効果を求める上で,部分的な利用も必需なのかもしれない。時間と手間の一部を新しいセンサリングサイエンスを導入して代替していくのは食品香料開発のひとつの流れだ。その反面,オーナー会社がこうした経費はかけず,経験と勘に基づき一発で方向性を定め香料の処方を打つことも香りのマジック如何でいたしかたない。世界中の原材料メーカーが最終食品のアプリケーション処方を示し営業活動を行うようになっている。ひとつの営業ツールとしてSensory Evaluationに基づいた的確なAttribute(味の評価における属性)の探求が必須となって久しい。

 

4. 5 食品香料の国際規制について

 

香料および香料化合物は,世界中でさまざまな規制の対象となっている。規制の差異は対象となる製品の製造方法,表示方法に大きく影響する。香料の国際規制に関しては,アメリカ合衆国と欧州では未だ相同していない。しかしながら食品香料の規制について最も大きな相違はナチュラルと合成香料である。これらはケミカルやバイケミカルルートによって製造された香料化合物の精製サンプル間で感覚受容性がないことにも由来する。アメリカではナチュラルと判断される以外はナチュラルフレバリングアイデンティカルとされる。

 

欧州では域内の各国間でさえ同一基準になっていないが,通常,アメリカより厳しい。欧州では,バイテクノロジーによるフレーバーは,ナチュラルフレーバーに分類され,特定の規制はない。しかし,GMOは不可であり,明確にナチュラルでなければならない。
また表示についても承知していなければならない事項がいくつかある。例えば,コーシャ規制やGRAS (Generally Recognized As Safe)等,国際的な食品添加物規制のハーモナイゼーションにおけるフレーバー物質の評価方法等が必要である。

 

4. 6 香料会社の行方

 

加工食品の発達に大きな貢献をしてきた香料会社であるが,グローバルマーケットではもはや寡占化状態となっている。最大の原因は食品の安全性問題から消費者が健康志向を望んでおり,その要求に対して香料原材料の化学物質が影を落としていることだ。その上に原材料価格上昇問題が浮上し,製品開発への投資額が減少し,また少ない添加量で効果を発揮する香料が求められ需要量が減少しているからだ。

 

現在ではナチュラル志向へいかに対処した製品を提供するかが,次の製品がヒットするか否かを左右する。その国,その地方の消費者の感覚へ適確に合い好まれる香料の開発を期待したい。

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